講演・対談・インタビュー

INTERVIEWもぐさをひねってこそ鍼灸師

指導内容を時代のニーズにマッチしたものへ。治療技術の上達にこだわる
森ノ宮医療学園専門学校 鍼灸学科1年生の実技授業にうかがい、
松下美穂先生、由良拓巳先生からお話しをお聞きしました。

PROFILE

  • 松下美穂先生
    まつした みほ松下美穂先生

    森ノ宮医療学園専門学校(大阪市東成区)鍼灸学科 学科長。陸上競技日本代表選手団のトレーナーとして数々の世界大会に帯同。スポーツ鍼灸を中心に、子どもから高齢者まで多彩なテーマで講演多数。

  • 由良拓巳先生
    ゆら たくみ由良拓巳先生

    同校 鍼灸学科 専任教員。
    同校開催「ツボ講座」にて、鍼灸によるセルフケアを中心に、衣・食・住について広く伝えている。講座での必須アイテムはもちろん「お灸」。

教育体験が一人の鍼灸師をつくる
治療技術の上達にこだわる

―実技の授業でせんねん灸を導入された経緯を教えてください。

学生たちはお灸に対して良いイメージを持っていません。「熱い」「めんどくさい」と言って敬遠します。まず、1年生の導入のところで「温かい」「心地よい」お灸でカラダが変わる、効果があるという体験をさせることが大切だと考えました。いきなり下手なお灸を受けるより、心地よいお灸を受けた方が良いのではないかと(笑)。

—授業を受けた学生の反応はいかがでしたか?

「お灸って効くんだ」という声が多かったですね。ほとんどの学生はお灸の経験がありません。「足がポカポカしてきた」という自らの感覚だけでなく、施灸前後の違いを写真で確認すると「これぐらいの熱(弱い刺激)で効果があるんだ!」と驚いていました。

—狙いどおりですか?

鍼灸師を育てるうえで大切なのは、「カラダが軽くなった」「ラクになった」など、お灸や鍼の効果をどれだけ体験させられるかです。導入後、学生同士お灸の練習をしているところをよく見かけるようになりましたよ。

―実技の中で、せんねん灸の位置づけをどのように伝えていますか?

まず、私たち鍼灸師は、患者さんが使われているものが、どんなものかを知らないといけないですよね。せんねん灸は定量化され、単一化された熱量ですが、もぐさをひねればツボにあわせて熱の範囲も、熱量も変えられます。プロフェッショナルとは技術を身につけることだと厳しく伝えています。

―3年間の教育の中で学生へ伝えている大切なこととは?

臨床に出てから生きていける鍼灸師像を伝えることです。鍼灸の可能性はいくらでも広げていくことができます。鍼灸で着実にやれば患者さんはちゃんといらっしゃる。治療技術が向上すれば患者さんは必ずついてきてくれます。学生には「あなたたちが下手な治療をすれば鍼灸のイメージが悪くなって患者さんの数を減らすことになるよ」って伝えています。鍼灸師の臨床技術が上がらないと鍼灸がすたれてしまうので、臨床技術の向上のために卒後教育が大切ということを学生時代に伝えておきます。
また、健康管理としての鍼灸というところを教えています。そうじゃないと患者さんって続かないので。健康であっても鍼灸の有効性を学生時代に実感してもらうのです。

—セルフケアの重要性ですか?

セルフケアは大事だと思っています。治療と治療の間をつないでもらう。自分のカラダに興味を持ってもらう。患者さんが自分のカラダに興味を持つと治療効果も上がります。自分のカラダにすごく興味を持たれている方は、次にどうしようと考えて行動されます。お灸はセルフケアのきっかけづくりとして取組みやすい。街で手軽に買えますから。
最初の実技でせんねん灸を教材として使うのも、学生がセルフケアのためにお灸を続けることで、自分のカラダに興味を持ってもらおうという狙いもあります。自分が経験したことしか、人へすすめることができません。また、自信を持ってすすめなければ、患者さんには伝わりません。

―教育現場の視点から、お灸の将来性をどう考えていますか?

もぐさを自由自在にひねる鍼灸師を育てることが大事です。もぐさをひねって心地よいお灸ができれば患者さんは増えます。心地よいお灸ができないから増えない。治療の心地よさを楽しみに、次回まで「頑張ろうっ!」てお灸でセルフケアをやってもらう。「あ〜やっぱり先生の治療よかった」って言っていただければ、それがいちばんです。
透熱灸ができないと、せんねん灸の良さもわからないし伝わらないかもしれませんね。(せんねん灸を指して)患者さんのセルフケアはこっち。鍼灸師の治療はセルフケアとは違うことをやらないと、やっぱり差別化はできないので。もぐさをひねってこそ鍼灸師。そのうえで、良いものはどんどん取り入れていったら良いと思います。

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